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気候の変化を身近に感じる
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【野口】
田んぼは米を生産するだけでなく、さまざまな役割を果たしていて、私たちは暮らしのなかでその恩恵を受けているわけです。きょうは、水田の持つ多くの機能について再認識して、都市住民を含めて、未来に向かって田んぼをどう保全していくのか、みなさんと一緒に考えていきます。
まず、基調講演や事例紹介を聞いた感想を、河合さんにお尋ねします
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【河合】
かつては20、30年に1回あるか、ないかだった異常気象が、頻繁に起こるようになってきた。そうすると記憶に残って、「最近、天気が変だな」と思うようになる。そう感じている方が多いと思いますし、実際に変化が起こっています。
ニュース番組で天気情報を提供していた1997年頃、福岡で1時間に97mmの集中豪雨を記録したことがあって、当時はトップニュースになりました。ところが、その後にも広島、名古屋、東京など各地で起こり、最近ではニュースにすらならない。せいぜいお天気コーナーで話題にする程度です。集中豪雨だけみても、それくらい増えている。
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農家や地域住民の視点で水田の働きをみる
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【野口】
気づけば、ちょっと恐ろしいことのようにも思えますね。
次に、実際に調査を行った木村先生にお聞きします。調査に協力していただいた住民や農家のみなさんからは、どんな話を聞いていますか?
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【木村】
観測場所を決める際に、難しい注文を出しました。衛星写真などで探すと、適当な場所が2カ所みつかった。早速下見に行くと、1カ所目はすでに宅地に造成されて水田がない。結局、残ったほうに決めたのだが、すでに水田に家が建ち始めていました。それほどのスピードで、水田の周辺はどんどん変わっています。
農家は高齢な方が多かった。それだけに気候の変化をよく知っています。天候は収量に影響しますから、最近の気候の変化をかなり心配しているようでした。
住宅地の住民の方は、水田からの風が涼しいことを体験的によく分かっている。さらに、水田から少し離れたところでも、風が吹くと涼しいと実感されている方が多かった。
それから、近所に田んぼがある環境の良さをよく認識しているという印象を持ちました。
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【野口】
井上先生は農業気象がご専門です。調査地の農家や住民の方の声を聞いて、いかがですか? |

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【井上】
私も調査していて、現地の方と話す機会があります。話を聞くと、田んぼを守りたいと大半の方が思っている。そのよさを分かりやすく伝えるためには、何かしらの指標が必要だと思い悩むわけです。それで、みなさんとの会話を研究のヒントにしようと思っている。
そこには、指標があって分かりやすくなれば、大切だから何とかしようという次の行動につながるという思いもあります。
研究者としては、研究の結果を農業や地域のために応用したいと強く思います。例えば、農地の気候緩和効果を定量的に評価できる道具があれば、次の時代の力になるでしょうから。
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【野口】
人との会話から研究のヒントをみつける、何かを学ぶということが大切なんですね。
それでは、河合さん。全国を取材した経験から、先生方の話を聞いていかがですか?
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【河合】
宮城県の山間にある農家を、1年間取材したことがあります。1996年頃だったと思いますが、冷害が心配された年でした。ところが、農家の方は「土用が来てから晴れればいい。梅雨明けに10日晴れれば、稲は大丈夫だ」というんです。
農家は農事暦を大切にしている。そして、空を見上げて、稲の状態をみて、空気を肌で感じてやっている。現地に行って体感して学ぶことがたくさんあることを学びました。
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都市住民の視点からみる水田の働き
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【野口】
今度は、NPOとして活動している藤原さんに伺います。
水田の大切さは分かっていても、なかなか関わりが持てない。藤原さんは、どんな思いで水田に関わっているのですか?
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【藤原】
「水」は学ぶべき分野がとても広い。それを横断的につなげて学び、発信していきたいと思っています。
水を学ぶと、日本は洪水の歴史です。水田があるのは沖積低地、地形的には一番低いところで、最もふさわしい土地利用だと思いますね。そう考えると、安全安心社会を構築するためには、都市はできるだけコンパクトにして、水田は水田として残してほしいという熱き思いです。
それから、都市用水は豊かにあるわけではないことを知ってほしい。都市用水はダムで用意することになっていて、東京も埼玉もギリギリでやっている。それでも、埼玉は農業用水の6〜7%を都市用水にまわしてもらっている。まさに、田んぼがダムなのです。
このために、冬場でも見沼代用水には水が流れています。でも、田んぼはカラカラです。春、上流から田んぼに水を引き始めると、水路より早く地下水が上がってくる。すると、畦畔から何から一斉に緑色になって、つくづく水が生きものを育てていると感じます。
そして、都市で生活する人間も同じですね。夏の草取りは暑いですが、終わるとホッとして心地いいものです
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【野口】
続いて、古谷さんに伺います。聞けば、田んぼの近くにお住まいとか。
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【古谷】
田んぼの近くでも、夏の昼間は暑いですよ。でも夜はとても涼しい。熱帯夜対策は、昼の間に家にこもった熱気をいかに外に出すかです。
朝や夕方に田んぼに行くと、稲の葉がキラキラ光っている。吸い上げた水を葉から蒸発させているからでしょうか、とてもきれいです。涼しさは、広がる青々とした風景や、風の音からも感じていると思います。
それから、童謡に歌われている赤トンボ、ホタル、ドジョウやメダカなど、私たちが親しんでいた生きものの多くが、実は田んぼでお米と一緒に育っているんです。ただし、そのことを私たちも農家も忘れてしまったのか、あるいは気づいていないんです。
そこで、まず都市住民に理解してもらうために、米づくりをしながら生きものに触れる活動を「田んぼの学校」として5年前から開催しています。
それから、農家自身がお米と一緒に、実はいろいろな生きものも育てていることを知ってもらうための生物調査もしています。
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【野口】
河合さん、2人の話を聞かれていかがですか? |

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【河合】
これまでの話を聞いていて、田んぼの新しい役割に気づきました。
私は大学院で、健康社会学を研究しています。簡単にいうと「ストレス研究」ですね。
実は、ストレスがないと人は成長できません。人生の雨を歩ききったとき、つまり人生の困難を乗り越えたときに、人は成長を実感します。ただし、雨のときには傘を差すように、人生の雨にも傘を持っていないと心が風をひいてしまう。
みなさんにとって、人生の傘は何でしょうか?私は、人と人との結びつきだと思います。頼れる人がいるということが、人生の困難を乗り越える傘になるんです。
そして、田んぼにはその結びつきを強くする働きがありそうです。田んぼの作業は1人ではできない。家族や隣の人、あるいはNPOのみなさんなど一緒にやらないといけない。
そういった意味で、2人にお聞きします。活動を通して、地域や農家の方たちからはどんな反応がありますか?
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【藤原】
田んぼは、営農によって守られています。ところが、見沼田んぼは作付けをやめたり、残土やゴミが不法に捨てられたりして荒れているところもある。
これを何とか手伝えないかと活動を始めると、都市住民のなかに協力してくれる人が意外に多かったんですね。都市はスピードが速いから、ゆったりした時間のなかで過ごしたいと願う。すぐ近くに水と緑の場があることに気づけば、そこに関わりたい、協力したいと思いますよね。都市にはそういうニーズがある。それなら、都市と農村のギブ・アンド・テイクの関係ができるのではと挑戦したわけです。
農業には、法律もですが、その地域の約束事やルールがある。できるだけ協調するのだが、難しいこともある。例えば、農家は農機具を田んぼで保管することなんて絶対しませんが、私たちには田んぼしかない。農家のあの広い庭先は、農業の重要な要件なんです。
やるからにはきちんとやりたいと思って、少し立ち止まって勉強や交流をしながら、用水路のゴミ拾いや畦畔の草刈りに徹しています。
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【古谷】
いかに目の前の田んぼを見ていなかったか気づいた、という声を田んぼの学校の参加者からはよく聞きますね。冬の田起こしまで手作業でやるのは、そうすることで見えてくるものがたくさんあるから。
また、何人かの子どもたちが毎年、夏休みの自由研究で田んぼの生きものをテーマにする。田んぼの学校で学んだことを、別の機会にさらに深めようとするのをみると、すごい影響力だなと思います。
それから、農家と一緒に生物を調査し、生きものをより豊かにするための提案や、時には作業協力もしますが、それならばとため池を復活させた農家もあります。
農家はお米をつくっているわけで、副次的に農地の自然を守っているわけです。だけど、例えば「中干し」まで水を切らさない当たり前の水管理をするだけで、オタマジャクシがカエルになれるし、ヤゴがトンボになれる。生きものに目をむけ、ほんの少し配慮するだけでも、生きものがどっと増えるんです。
今まで田んぼを守ってきたのは農家だし、基本的には今後も農地の自然を守るのは農家だと思います。私たちはその時々でできることを考えて、協力したいと思っています。
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都市との新しい関係 田んぼの未来
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【野口】
最後に、きょうの感想を含めて一言ずつお願いします。 |

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【藤原】
農業の副次的な価値を評価する機会が生まれたことは、すばらしいことだと思っています。たくさんの人に理解を得ることによって、その土地の物を食べようという愛情も生まれるはず。これからももっとこういう機会を増やしていただけたらと思います。
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【古谷】
都市だからこそ、田んぼを守るべき理由があるんだなとすごく実感しました。
いつか、安くて美味しくて安全な外国産のお米が入ってくるときが来るかもしれない。でも、日本の美しい風景とか、涼しい風とか、生きものの賑わいとか、季節感とかそういったものは絶対に輸入できないものです。
お米の袋にも表示されていない日本のかけがえのない大事なものがあることを、感じてもらえればいいなと思います。
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【河合】
皆さんは、何らかの興味があってここにいらっしゃった。その気持ちと、きょう聞いた話や田んぼに行ったときに「おもしろい」と感じた気持ちを忘れずにいてほしい、と思います。
それは、その気持ちが「維持するエネルギー」になるからです。それが1日だけのイベントではなくて、日常になったときに大きな力になります。きょうの興味をどんどん磨いていって、日常にしていくこと。その積み重ねが大切なんだと思います。
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【井上】
昔の農業は、農家が共同作業でやってきた。しかし、だんだんとそうもいかなくなっているのが現実ですね。つまり、枠組みを変える必要がでてきた。その1つが、NPOとの関係です。その枠組みの今後がどうあるべきかは分かりませんが、そこは興味をもってみていきたいと思います。
そのとき、行政がやるべきこと、地域住民がやるべきこと、そして、市民がやるべきことなどいろいろあるでしょう。行政は大きな意味で環境づくりをやり、そこでのルールは当事者間で行うのがいいように思います。
それから、こうしたフォーラムを5年か、10年前に開催できたらよかった。温暖化の問題などはすでにかなり深刻化しているし、もっと早い時期にみんなで声を上げておく必要があったように思います。
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【木村】 古谷さんから「都市にこそ田んぼが重要で、価値がある」という意見をいただきました。気候からみても、正にそのとおりです。
さいたま市をみると、市の両側(周辺)にある緑が、気候緩和の意味から非常に大きな機能があると考えています。
都市化が極限まで進んだ東京は、ヒートアイランド現象がひどいことになっているはずだが、実は東京湾の気候緩和機能を享受している。これに対して、さいたま市には東京湾からの風はあまり届かない。届いたとしても、すでに暖まっていますね。こう考えると、やはり田んぼや緑地が都市の気候を緩和しているわけです。おそらく唯一の緩和機能といっていいでしょう。
だから、東京の真似をしたらとんでもなく暑くなる可能性があることを、ぜひ理解していただければと思います。
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【野口】
みなさんの話を聞いて、田んぼの未来の姿がおぼろ気ながらみえてきたように思います。関東平野は今も食料を安定的に供給する水田地帯が広がっています。埼玉をみると、都市部の周辺にさえまとまって水田がある。
その多面的機能を考えると、暮らしを豊かにする社会の資源だと思います。当然、そこは農家が働く場ですが、地域社会の財産として未来に向かって残していこうという動きもすでに始まっていますし、都市住民と農家の方々とが連携するチャンネルもさまざまに開かれ始めています。
こうした連携によって互いに「気づき」「学びあう」ことができるでしょう。最終的には、人間と人間の新しい関係をどう結べるのかが大切なのだろうと思います。そこで、次の3つのポイントを挙げてまとめとします。
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@水田にはさまざまな働きがある
A水田は社会的な資源であり、地域社会の財産
B農村と都市との連携 |