クローズアップ

噛んで食べる。「命の入り口」学ぶ

[2014/09]



調理実習の後に行われた講義では「口の健康」を学んだ

 

充実した設備を使って本格的なケーキづくり。授業に生かせるように学校の調理器具で作る際のコツもしっかり学ぶ。

県製菓専門学校で教員向け講座

 この夏、県教育局が開いた教員向け講座で、パティシエなどを育てる専門学校と地元の歯科医師会、牛乳・乳製品の消費拡大を図る団体が連携。一流の講師と充実した設備を使った調理実習に加え、口を「命の入り口」と捉えるユニークな視点から食と健康を学んだ。堅い食べ物は苦手という若者も少なくない。さて、よく噛んで食べる意味って何だろう。

 今日の昼食は時間がなくてうどんで済ませた。涼しい日が続いた後の夏日、冷えた麺はのど越しがいい。数回噛(か)んでは次々にすすり込む。一人前のうどんを平らげるのに、いったい何回噛んだだろうか。

 高齢者向けに口腔ケアの指導などを行っている熊谷市歯科医師会の歯科衛生士、太田千恵子さんは噛むことの大切さについてこう話す。

「食べ物を飲み込んだり、味が分かったりするのは、噛むことで唾液が分泌されるから。噛んで唾液と食べ物を混ぜ合わせることで消化がよくなるし、噛むことは脳の活性化にもつながります」

 普段は意識することの少ない噛むという行為だが、口の機能が衰えるとどうなるのか。太田さんは続ける。

「食べる楽しみを損なうだけでなく、特に高齢者にとっては低栄養や誤嚥性肺炎の危険性が高まります。人に会うのが億劫になるなど閉じこもりの原因にもなりかねない。体は動いても、口の寝たきりということも少なくありません」

 口は単に食べ物の入り口ではなく、体全体とつながっている「命の入り口」だ。

よく噛んで食べる習慣
若いうちから

 この日、熊谷市にある埼玉県製菓専門学校に高校家庭科の先生が集まった。県教育局が開いた教員向け講座。同専門学校に加え、熊谷市歯科医師会や県牛乳普及協会が協力して実現したもので、乳製品を使った調理実習と、口腔ケアと食に関する講義が行われた。

 企画した指導主事の山盛敦子さんは狙いをこう話す。

「さまざまな分野からの協力を得て、これまでにない視点で食や健康について学ぶ機会になればと企画しました。先生方には講座で受けた刺激を授業で生かしていただきたい」

 午後の講義。講師を務めた太田さんは簡単な体験実験を交えながら進めていく。

 ティッシュペーパーで唾液を拭き取った舌の上に砂糖をのせてみる。「まったく甘さを感じない」と受講者から驚きの声が漏れる。唾液の分泌が味覚と深く関係していることを理解する体験だ。唾液の量や噛む力、飲み込む能力が健康づくりの基本だと学んでいく。

「口の機能の衰えは高齢者だけの問題と思われがちだが、実は若い人にとっても大事なことです。早食いや堅い物が苦手という若者も多いが、よく噛んで食べる習慣を若いうちに身につけておくことが大切です。80歳になっても、自分の歯を20本以上保てるように努めてほしい」

 厚労省の平成21年国民健康・栄養調査によれば、75歳以上で自分の歯が19本以下の人の5割以上が「かんで食べることに支障がある」と答えている。一方で、20本以上の人では「何でもかんで食べることができる」が8割を超える。

 ハンバーグやパスタなどは子どもが好む軟らかメニュー。もぐ、もぐ、ごっくん…さて、何回噛んで食べただろう。